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―リタイヤして語る棚卸の価値―
「最後の砦」を担った日々 社会人になって以来、私は長年にわたり、毎期の「実地棚卸」という定例イベントに関わってきました。 会社の資産を守る経理にとって、これは避けて通れない――いわば「最後の番人」としての役割です。 今年、会社員生活を終え、もうあの倉庫の冷たい空気に触れることはありません。 当日自然と身が引き締まった、あの独特の緊張感も今では懐かしい思い出です。 太陽の当たらない倉庫や工場の現場はとにかく寒く、早朝からの作業も多いため、正直「好きではない」仕事でした。 しかし、あの地道で面倒な作業こそが、会社の状態を「肌で感じる」貴重な機会だったと、愛着をもって思い出しています。 「余力がない」では済まされない ― 実地棚卸の3つの役割 中小企業の経営者の中には、 「うちにはそんな余力はない」 とおっしゃる方もいるかもしれません。 しかし、実地棚卸は単なる在庫確認ではなく、経営の健全性を支える「内部統制」の要です。 ここでは、実地棚卸が果たす3つの重要な役割を整理します。 ① 適正な利益の計算 売上原価は「期首棚卸高+仕入高-期末棚卸高」で計算されます。 棚卸残高を正確に確定しないと、利益も経営判断も誤ってしまいます。 現物を確認してこそ、数字の裏にある「本当の経営実態」を把握できます。 ② 不正の発見・予防 帳簿上の在庫と現物を照合することで、横領・盗難・改ざんなどの不正を発見できます。 また、定期的な棚卸を実施することで「不正をやりにくくする環境」を整えることにもつながります。 棚卸は、企業にとって最大の抑止力でもあるのです。 ③ 在庫の品質・状態の確認 棚卸の現場では、不良品や破損品といった物理的劣化品、 あるいは陳腐化した在庫(経済的劣化)などを見つけることができます。 こうした気づきは、在庫管理や仕入の見直しにつながります。 面倒を「改善」のチャンスに変える 棚卸が「面倒」と感じる理由の中には、改善のヒントが隠れています。 面倒な理由 改善の方向性 点数が多くて数えるのが大変 ⇒ 適正在庫の見直し 種類が多くて整理しにくい ⇒ 共通化・集約化の検討 在庫が分散していて数えにくい ⇒ 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の実践 こうした小さな改善が、作業効率の向上やコスト削減に直結します。 「面倒な作業だからこそ、価値がある」――実地棚卸にはそんな側面があります。 経営者へのメッセージ 長年、棚卸の現場に携わった者として申し上げたいのは、 「余力がない」と片づけてしまうのは、あまりにも惜しいということです。 実地棚卸は、自社の状態を肌で感じられる唯一の機会です。 数字だけでは見えない「現場の真実」を知るために、 ぜひ一度、真剣に取り組んでみてください。
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1. 転機と再会
今年の3月末で会社員生活を終え、4月に最初の転職先のCEOにご挨拶に伺いました。 かつての上司で、当時はインテリア事業を担当されていた方です。 その会社は「建材」と「インテリア」の二本柱。 建材事業は安定していましたが、インテリア事業は利益率が低く、苦戦していました。 製品は高い機能性を持ちながらも、設計事務所や代理店経由でしか伝わらず、一般消費者にはほとんど知られていなかったのです。 ところが今回、CEOの口から出たのは「インテリア事業が見違えるほど改善された」という言葉。 その背景には、“製品の価値の伝え方”を根本から変えた経営改革がありました。 2. 「売り方」ではなく「伝え方」を変える CEOが着手したのは、3つの変革です。 ① 一般消費者への直接アプローチ 雑誌広告でBtoCの認知を拡大し、潜在顧客に直接リーチ。 これにより「知る人ぞ知る」存在から「憧れのブランド」へと位置づけが変わりました。 ② 代理店を“ギャラリー化” 一部の代理店を体験型のギャラリーに転換。 誰が説明しても同じブランド体験を提供できるようにし、営業力のバラつきを解消しました。 ③ 自社ショールームの“予約制”導入 ゆったりと時間を取り、専門的な説明や提案を行うスタイルに。 「丁寧な接客」と「特別感」を演出し、製品価値への納得感を高めました。 3. 製品が「体験」に変わった瞬間 こうした取り組みの結果、製品は単なる「高級インテリア」ではなく、 「暮らしの質を高めるインテリア体験」として再定義されました。 価格競争から抜け出し、顧客は“体験への共感”で購入を決めるようになったのです。 まさに「良い製品を売る会社」から「価値を体験として届ける会社」への進化でした。 4. 中小企業にもできる3つの工夫 この話は大企業だけのものではありません。 中小企業でも「価値の伝え方」を工夫するだけで、製品の魅力は何倍にもなります。 ①誰に届いているかを見直す 最終顧客まで自社の強みが伝わっているか確認しましょう。 ② “体験”の場をつくる 展示会・試用・オンライン相談など、実際に体感できる仕掛けを。 ③ 限定性や予約制で特別感を出す 「選ばれた顧客に向けた提案」が、ブランドの格を上げます。 5. まとめ:今日からできる一歩 製品の良さは、伝え方しだいで価値が何倍にも変わります。 機能を語るだけでなく、「体験」として伝える工夫が、次の成長を生む鍵です。 もし「製品には自信があるのに売れない」と感じているなら、 今こそ「価値の伝え方」を見直すタイミングです。 ターゲットを明確にし、伝え方を再設計するだけで、売上の質も顧客との関係性も変わります。 今日からできる“小さな一歩”を、ぜひ始めてみてください。 非関連事業への展開について夢を語る中小企業の社長様と出会いました。
夢を描くこと自体は素晴らしいことです。 しかし、その夢を「いつ・どうやって・なぜ実現するか」には、慎重な見極めが必要です。 このテーマについて考えるとき、私はよく旧三菱財閥の歴史を思い出します。明治から昭和にかけて日本経済を牽引したこの巨大企業体も、はじめから多角的な事業を志していたわけではありません。 むしろ、三菱の出発点は、土佐藩の借金整理と貿易事業という極めて限定された「やるべきこと」でした。 事業は「必要に応じて」広がっていくもの 岩崎弥太郎によって設立された三菱商会(後の三菱財閥)は、当初、海運事業からスタートしました。しかし、海外貿易が拡大するにつれて、造船業が必要になり、そこから銀行業、製鉄、保険、そして最終的には三菱重工・三菱銀行・三菱地所・三菱自動車など、実に多くの事業へと枝を広げていきました。 注目すべきは、それらの事業拡大が「やりたいからやった」のではなく、「必要だから」「やれる体制が整ったから」「リスクと責任を負えるから」着手されたという点です。 つまり、旧三菱財閥の多角化は「やるべきこと・やれること」の延長線上にしかなかったのです。 「夢」と「戦略」の境界線 中小企業において、現業の足場がまだ固まっていないうちから全く異なる分野へと手を出すのは、例えるなら基礎の浅い家に増築を重ねるようなものです。一見、規模が大きく見えても、土台が揺らげば全てが倒れてしまいます。 多角化は決して悪ではありません。 しかし、それが「やりたいこと」だけに基づいている場合は、企業の資源(人・モノ・カネ・時間)を分散させ、かえって本業の価値を毀損するリスクを伴います。 反対に、「やるべきこと」―すなわち顧客ニーズや市場環境に押されて進出する場合は、それが本業の強化につながることも多いのです。例えば、建設業がリフォームに進出する、IT企業がセキュリティサービスを始める、といったケースです。 さらに大事なのは、「やれること」かどうかの見極めです。 自社の強みや人材、財務状況を冷静に分析し、仮に儲かる事業でも、自社にとって「まだその力がない」のであれば踏み込むべきではありません。 中小企業こそ「一点突破」が武器になる 旧財閥のような大企業とは異なり、中小企業には限られた資源しかありません。 だからこそ、「何をやらないか」を決めることが生き残るための鍵になります。 経営において最も難しいのは、「今はやらないと決めること」です。 ワクワクする未来を思い描きつつも、「今は本業に集中する」「これは夢にとっておく」という判断ができる経営者こそ、長く信頼される存在になっていくのではないでしょうか。 |
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