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――2026年改正が本当に突きつけた“経営者の実力差”
2026年1月、「下請法」は取適法(中小受託取引適正化法)へと改正されました。 ニュースや解説では「中小企業が守られる」「価格転嫁が進む」といった前向きな言葉が並びます。 しかし、ここで一つ、経営者として冷静に考える必要があります。 法律が変わったからといって、経営が自動的に楽になるわけではありません。 むしろ今回の改正は、経営者の実力差をはっきりと可視化する法律だと言えます。 ________________________________________ 1.取適法改正の本質は「交渉の土俵整備」 今回の改正の最大のポイントは、 「協議に応じない一方的な代金決定」が明確に禁止されたことです。 つまり国は、 • 価格交渉を申し出る権利 • 交渉の場に着く権利 を中小企業に与えました。 しかし、ここで重要なのは―― 国は“価格を決めてはくれない”という点です。 交渉の中身、すなわち • いくら上げるのか • なぜその金額なのか は、すべて経営者の責任です。 ________________________________________ 2.「値上げしてください」だけでは守られない 取適法では、発注側が合理的理由なく協議を拒否することは違法になりました。 しかし裏を返せば、 合理的な説明がない交渉は、協議したとは認められない ということでもあります。 たとえば、 • 「原材料が上がったので上げてください」 • 「人件費が厳しいんです」 このレベルの主張だけでは、発注側が「根拠が示されていない」と判断すれば、違法とは言えないケースも十分にあり得ます。 法律は“説明できる企業”しか守らない。 これが、今回の改正の厳しい現実です。 ________________________________________ 3.問われるのは「コストを語れる経営者」かどうか では、どんな経営者が交渉できるのでしょうか。 答えはシンプルです。 自社のコスト構造を、自分の言葉で説明できる経営者です。 具体的には、 • 原材料費・労務費・エネルギー費は、それぞれ原価の何%か • そのうち、今回どの費目が、どれだけ上昇したのか • 価格を何%上げないと、利益がどうなるのか これを数字で説明できるかどうか。 これができない限り、取適法という“武器”を持っていても、実戦では使えません。 ________________________________________ 4.法律は「丸腰の経営」を助けてはくれない 公正取引委員会は、価格交渉を支援するために交渉用フォーマット(労務費転嫁に関する様式)を公開しています。 https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html これは非常に有効なツールですが、中身を埋められるかどうかは、経営者次第です。 • コストの内訳が分からない • 原価計算が曖昧 • 勘と経験で価格を決めている こうした状態では、フォーマットは空欄だらけになります。 法律は、「考えていない経営」や「把握していない経営」を補ってはくれません。 ________________________________________ 5.取適法は“経営力を鍛える法律”である 今回の改正を前向きに捉えるなら、取適法は「中小企業を守る法律」であると同時に、経営者に“数字と向き合え”と迫る法律だと言えます。 • どんぶり勘定のままでは交渉できない • コストを把握している会社ほど、堂々と話せる • 結果として、取引関係も長続きする これは経営の王道そのものです。 ________________________________________ 結び:法律より先に、経営を整える 取適法は、経営者にとって追い風です。 しかし、その風を帆に受けて進めるかどうかは、船(=経営)が整っているかにかかっています。 まずやるべきことは一つ。 自社のコストを、説明できる形にすること。 それができて初めて、法律は「味方」になります。
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原価計算の重要性
1962年当時の大蔵省(現在の財務省)が定めた「原価計算基準」では、原価計算を次のように定義しています。 「製造活動を財務会計から受け取ったデータを、給付(製品やサービス)と結びつけて一定の計算を行い、貨幣価値で表す技術である。」 30年ほど前、私が製錬会社の会計部にいた頃のこと。ある飲み会で先輩から「原価計算とは何か?」と聞かれ、答えに詰まっていると、その先輩はひとこと、「原単位だよ」とおっしゃいました。 「なるほど、上手いこと言うな」と感心し、以来この言葉を大切にしています。 原価計算基準では、原価計算は次の3つの段階で成り立っています。
この過程を通して「何にどれだけコストをかけたか」がわかります。 先輩の言葉は、このプロセスの中でも「1個あたりの材料や時間(=原単位)」をしっかりつかむことの重要性を説いたのだと、今でも思います。 経営者こそ、原単位を意識すべき 原単位とは、製品1個あたりに必要な原材料の量や製造時間等のことです。これを把握すれば、数字に基づく判断ができるようになります。 例えば「今月の原材料費は高い」と感じても、それが生産増や製品構成に由来するものなのか、歩留まりが悪化したものか、理由が違えば対処も異なります。 また、1個あたりの作業時間が多すぎるなら改善の余地が生まれます。 つまり、原単位の把握は「勘と経験」から「数字と根拠」による経営への一歩なのです。 数字が価格交渉を強くする 先日、経済産業省関東経済産業局の講演を拝聴する機会を得ました。 昨年の調査によると、原料価格やユーティリティ価格等の上昇分を、全てを販売価格に転嫁できた企業は凡そ2割5分、一方まったく転嫁できなかった企業も約2割ありました。全体での転嫁率は約45%とのことです。 興味深いことは、転嫁に成功した理由の中で最も多かったのが、「原価を示して交渉した」こと(約45%)ということでした。 これは、すべての数値を開示することは不可能でしょうが、「説得力のある根拠」を持って価格交渉することがお取引先の理解や納得につながるという証です。 そのためには、やはり日頃から自社の原価、特に原単位をしっかり把握しておくことが欠かせません。 原価計算の基本は身近なところで学べる 国が全国都道府県に設置している「よろず支援拠点」では、原価計算の基礎や計算方法を学ぶことができます。 会計の専門家でなくても、ポイントを押さえれば誰でも身に付きます。 勿論、私にご相談頂いても結構です。お待ちしております。 Contact 中小企業経営者の皆さまには、数字の裏づけを持った経営判断、取引先との交渉、そして利益改善のためにも、ぜひ「原単位」の考え方を取り入れていただきたいと思います。 |
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