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過去二回の掲載では鉄道会社が危機を乗り越えるために実行した二つの顧客戦略を見てきました。 一つは「ファンの熱狂を収益に変える」マニア戦略。 もう一つは「移動を体験に変える」豪華列車戦略です。 一見、対照的に見える二つの戦略ですが、根底には共通の思想があります。 それは――既存の資産を、別の価値に転換することです。 1.資産を「機能」から「物語」に変える 鉄道会社は、車両や線路といった“当たり前の資産”を「物語」と「希少性」を持つ商品に変えました。 中小企業にとっての教訓は、「自社の当たり前」を顧客視点で見直すこと。 眠っている「時間(閑散期)」「場所(工場の裏側)」「人(ベテランの知恵)」を掘り起こし、そこに物語と希少性を与えるだけで、新しい価値が生まれます。 2.マニア層をどう動かすか 新しい価値を広めるには、まずアーリーアダプター(マニア層)を味方につけることです。 彼らは「自分の情熱が認められること」に価値を感じます。 その心理を満たす3つの施策が有効です。 • 共同創造(コ・クリエーション):試作品段階で意見を求め、「あなたの意見で商品が変わる」という名誉を与える。 • 知識の承認:深い知識を持つマニアを「公式アンバサダー」として紹介し、専門性を認める。 • 安心して語れる場づくり:宣伝を控えたファン限定のコミュニティを設け、企業への愛着を育てる。 3.「マニア」と「体験」をどう使い分けるか 中小企業が成果を上げるには、目的に応じてこの二つを戦略的に使い分けることが鍵です。 • マニア戦略は「話題と熱量をつくる」段階で有効。
SNSなどを通じて無料で情報が拡散し、初期の注目を集められます。 • 体験戦略は「信頼と収益を深める」段階に適します。 製造なら工程見学、飲食なら産地体験など、接点を“記憶に残る体験”に変えることでブランドが定着します。 理想は、マニア戦略で熱をつくり、体験戦略で収益を深める流れを設計することです。 前者が認知を、後者が信頼と利益をもたらします。 鉄道会社の成功は、「自社の当たり前を疑い、既存資産を見つめ直す」姿勢の成果でした。 中小企業も、自社に眠る「物語」と「希少性」を再発見することで、新しい収益の柱を築くことができます。 “価値は作るものではなく、見つけ直すもの。” この発想の転換こそが、これからの中小企業に求められる真の「経営革新」と言えます。
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前回では、「マニア」というニッチ層を深く理解し、熱狂を収益化した鉄道会社の発想転換を見ました。
今回は、その戦略がさらに進化し、鉄道そのものを“旅の目的”に変えた「豪華列車」戦略を取り上げます。 この戦略の核は、機能的価値(速さ・安さ)をあえて捨て、「上質な体験」と「物語」を提供すること。 結果として、一般の富裕層や旅行愛好家という新たなターゲットを開拓しました。 1. 機能競争から脱し、“体験”で差別化する 豪華列車は、単なる移動手段としての「速さ」「便利さ」では航空機や新幹線に敵いません。 そこで彼らは、全く異なる土俵――“体験”という非日常の価値で勝負を挑みました。 価値の軸 従来の鉄道 豪華列車(D&S列車※) 主目的 移動・スピード 滞在・体験・非日常 競争相手 航空機・高速バス 豪華客船・高級旅館 商品設計 車両性能・ダイヤ デザイン・料理・おもてなし・物語性 豪華列車は、「人生観が変わるような極上の体験」を提供することで、価格競争から完全に離脱しました。 顧客は「移動」ではなく「感動」にお金を払うようになったのです。 (※D&S列車:デザイン&ストーリー列車、JR九州が運行する特別な観光列車シリーズ) 2. 「体験」を核に、収益とブランドを拡張する3つの戦略 豪華列車は単なる“旅の演出”ではありません。 鉄道会社と地域の双方に経済的・戦略的メリットをもたらす「体験経済」の実践モデルです。 ① 遊休資産を「時間と空間の再定義」で高収益化する 豪華列車は、通勤・通学需要の少ない時間帯や不採算ローカル線をあえて走ります。 つまり、線路や駅といった遊休資産を「観光資源」として再定義したのです。 • 鉄道の例:夜間の工場地帯を“暗闇の中の夜景ツアー”として演出する「夜景電車」。 • 中小企業への応用:普段は価値を感じにくい“夜間・閑散時間”や“裏側の工程”を、見せ方次第で付加価値化する。 ② ブランドを刷新し、「走る広告塔」として活用する 豪華列車は「走る芸術品」としてメディア露出を集め、企業ブランドを一新しました。 「革新的で上質」という印象が定着し、鉄道以外の事業(ホテル、駅ビルなど)のブランド力向上にも波及しています。 • 鉄道の例:著名デザイナーと連携し、車両のデザインそのものを広告媒体化。 • 中小企業への応用:店舗やパッケージにデザイン性と物語性を加え、SNSやメディアで“話題になるブランド”へ刷新する。 ③ 地域資源を「編集」して共同収益を創出する 豪華列車では、車内で提供する食事やツアーに地域の食材・工芸品・人材を積極的に取り入れています。 結果として、沿線地域全体の経済を潤す仕組みが生まれています。 • 鉄道の例:沿線の宿泊施設や特産品と連携し、列車を核に地域全体で観光価値を創出。 • 中小企業への応用:地元の酒蔵や飲食店と提携し、移動を組み合わせた「地域体験型ツアー」や「限定イベント」を企画する。 豪華列車の戦略は、自社ビジネスを「わざわざ訪れたくなる目的地」に変える発想を示しています。 そこには、ローカル鉄道が実践する「地域資源の編集」や「遊休資産の再定義」といった、中小企業でも今すぐ応用できるヒントが詰まっています。 あなたの会社にも、 “移動を目的に変える”ような体験価値―― つまり「人がその体験のために訪れる理由」は、きっと眠っているはずです。 かつて“マニアックな愛好家”扱いされていた鉄道ファン(鉄オタ)は、今や鉄道会社にとって「高収益をもたらす“最強の上顧客”」となりました。
この変化の裏にある「ファンを味方につける」戦略は、経営資源が限られた中小企業こそ学ぶべき逆転の発想です。 1. ターゲットの再定義:「単なる一般乗客」から「最強のファン」へ 鉄道会社は、価格に敏感な一般客ではなく、熱狂ファンに焦点を切り替えました。 • 一般客: 価格に敏感(安価な移動手段を求める)。 • 熱狂ファン: 価格に鈍感(熱意のあるものには高額を支払う)。 希少性や体験価値に喜んでお金を払い、高利益率の特別収入と強い口コミによる宣伝効果をもたらします。 2. 提供価値の転換:「モノ」ではなく「物語と体験」を売る 売るものを「列車」から「物語」と「体験」へと転換しました。 • 廃止予定の車両・路線を「負債」ではなく「最後の勇姿」や「歴史のレガシー」として商品化。 • 車両基地など普段立ち入れない場所を「非日常の冒険体験」として開放。 【中小企業への教訓】 あなたの会社の「古くて当たり前」のものが、誰かにとっては「特別な歴史」や「限定体験」に化けるかもしれません。 3. ニッチ戦略を成功させる3つの鉄則 鉄則①:まずは“コアなファン”を見つける すべての人ではなく、「異常なほどの愛を持つ人」に注目しましょう。彼らは... • 最強のテスター:マニアックな意見で製品の質を極限まで高めます。 • 最強の広報マン:熱量ある口コミが、広告費ゼロで一般層を惹きつけます。 鉄則②:“余っているもの”こそが宝の山 お金をかけず、今ある資源の価値を再定義します。 既存資産 鉄道会社の例 中小企業への転換例 使わないモノ 廃止予定の車両 旧型機材の部品、試作品 見せない場所 車両基地の裏側 工場内部の製作工程、デザイナーのラフスケッチ 終わるノウハウ 引退が近いベテランの技術 熟練工の限定ワークショップ、秘伝レシピの公開 鉄則③:「特別な理由」で単価を上げる ファンは高額でも「特別な理由」があれば購買します。 • 例:「限定50個、社長が一つ一つ手作業で磨き上げた逸品」 • 例:「創業者の思いを聞きながら商品を作る体験ツアー」 熱狂する少数に刺さる商品こそが、持続的な利益を生むのです。 結び 中小企業は資金力では大企業に勝てませんが、「想い・物語・限定性」を武器に、熱烈に応援してくれる少数を大切にすれば生き残れます。 |
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