かつて私の職場には、ドイツ人の社長がいました。彼のマネジメント能力については、贔屓目に見て「中」といったところで、彼の発言に「No」と反論せざるを得ないことも少なからずありました。
とはいえ、彼には誰もが認めざるを得ない、際立った才能が一つありました。 それは、「安全衛生」に対する卓越した視点です。 彼の工場安全査察に同伴する時間は、私にとって非常に有意義で、多くの学びがありました。 工場内の安全に関する彼の意見は的確で、誰も反論できない説得力がありました。 彼の送別会が本社と工場でそれぞれ開催された際、私が本社での送辞で彼の安全衛生に関する着眼点の素晴らしさに触れたのですが、驚くべきことに、工場での送別会の送辞の内容もほぼ同じだったと聞きました。 このことは、彼の安全衛生に対する視点がいかに抜きん出ていたかを雄弁に物語っていると思います。 なぜ彼はそこまで安全衛生に関して優れた視点を持っていたのでしょうか? 私は、彼が「慣れ」や「しきたり」といったものに囚われず、常にフラットな視点で物事を見ていたからだと考えています。 「なぜ、この手順なのか?」「なぜ、このやり方が続いているのか?」と問いかけ、自身の持つ知識や知見と照らし合わせ、矛盾する点があれば徹底的に追求していたのでしょう。 私たちも日々の業務において、ついつい「慣れているから」「これまでこうしてきたから」という理由で物事を深く考えずに進めてしまうことがあります。 しかし、彼の姿勢から学ぶべきは、そうした「慣れ」や「しきたり」を排除し、「なぜ」という問いを常に持ち続けることの重要性です。 特に安全に関わる場面では、「なぜ?」と問い続ける姿勢こそが、事故を未然に防ぎ、安全な職場環境を築くうえで不可欠なのだと、改めて実感しました。 私も彼の安全に対する姿勢を見習い、常に本質を追求する視点で仕事に取り組んでいきたいと思います。
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ここを近年、日本を訪れる外国人観光客が急増し、2025年上半期には2,000万人を突破、消費額も5兆円に迫る勢いです。
円安の後押しもあり、国内観光業は活況を呈しており、インバウンド消費は自動車産業に次ぐ「準・輸出産業」としての地位を確立しつつあります。 しかし、この賑わいの裏で、静かに広がる「オーバーツーリズム」による歪みが顕在化しています。 観光地では、私有地への無断侵入やゴミのポイ捨て、地域住民への迷惑行為といった、マナー違反の問題が相次いでいます。 地元住民からは「観光客に生活を乱されている」との声も上がり、観光資源そのものの価値を損なう恐れすら出てきました。 「お願い」だけではもう通用しない時代 これまでの日本では、「性善説」に立ったマナー啓発が主流でした。 しかし、こうしたアプローチだけでは限界があることが明らかになりつつあります。 最近の参院選では、「外国人差別」がひとつの争点となりましたが、この議論の背景には、政府が制度やルールの整備を怠ってきた結果として、地域や企業の現場で“現実的対応”が求められ、そこに歪みが生じてしまった、という側面も否めません。 では、私たちはこの状況にどう向き合えば良いのでしょうか。 ここで注目したいのが、シンガポールのごみ対策です。 同国ではごみのポイ捨てに対して明確な罰金制度があり、違反者は高額な罰則を科されます。 この「明文化されたルール」と「実効性ある罰則」が、市民の行動を大きく変えました。 日本でも、ただ「お願い」するだけではなく、誰にでもわかるルールを明文化し、それを運用していくことが必要です。 これは外国人観光客に限った話ではありません。 日本人を含め、すべての人が対象です。 もはや「モラル頼み」から「仕組みによる行動設計」へのシフトが、国として、そして国民として必要なのかもしれません。 中小企業経営にも求められる「仕組み化」の視点 この「明示的なルール設計」の考え方は、観光に限った話ではありません。 企業経営にもまったく同じ課題が存在します。 かつての日本企業では、「先輩のやり方を見て学べ」「空気を読め」といった、属人的な文化が主流でした。 しかし、現代のビジネス環境では、それでは再現性が担保されません。 品質・成果が個人任せになり、組織としての持続的成長を妨げてしまいます。 今、中小企業に求められているのは、「業務の明文化、マニュアル化、標準化」です。 誰がやっても一定の成果が出せるように、「仕事の仕組み」を明示的に設計し、運用すること。 まさに企業にも、「性善説」ではなく「性悪説に立脚した運営」が必要とされているのです。 あなたの会社は、まだ「人」の善意や努力に頼りすぎていませんか? オーバーツーリズムが私たちに突きつける課題は、あらゆる組織において「仕組みの力」が不可欠であることを示唆しています。 この機会に、自社の業務プロセスを見直し、「人」に依存しない強固な「仕組み」を構築していくことをお勧めします。 |