昨日、私の中小企業診断士実務補習8日間コースが無事終了しました。士業登録に必要な15日間の補習のうち、半分が終ったことになります。指導診断士の先生、そして5名の仲間たちの協力のおかげで、診断企業への報告を滞りなく終えることができました。本当にありがとうございました。
今回の実務補習で診断させていただいたのは、地域に根差した福祉サービス事業を営む、いわゆるワンマン企業様でした。限られたヒアリング時間の中で、社長様の新規事業に対する並々ならぬ熱意を感じると同時に、従業員の方々がその新規事業を十分に理解していないというお悩みも伺うことができました。 社長様は従業員全体会議を四半期に一度の頻度で開催されているとのことでしたが、それでも従業員の方々の理解が得られていないのはなぜでしょうか?私が考えられる理由は2点あります。 1点目は、ミーティングが形骸化している可能性です。もし社長様からの一方的な説明で、従業員の方々からの意見や質問が受け付けられないような場であれば、従業員の方々はミーティングに興味を持てず、真剣に話を聞こうとはしないでしょう。 2点目は、新規事業が現存事業と関連性が薄く、従業員の方々が具体的なイメージを持ちにくいという点です。今回のケースでは、本業が福祉サービス事業であるにも関わらず、奢侈品の製造委託・販売という異業種への参入を検討されていました。元々は介護用品の製造委託・販売を検討されていたようですが、社長様の思いつきで方向転換されたようです。 既に本業の利益率が低いにもかかわらず、10百万円を超える投資を伴う新規事業への参入は、従業員の方々の不安や不満を増大させ、社内の雰囲気を悪化させる可能性があります。士気の低下、業務品質の悪化、離職率の増加、さらには金融機関からの融資打ち切りや倒産といった最悪のシナリオも考えられます。 このような状況を打開し、会社の崩壊を食い止めるためには、社長様が「なぜ新規事業が必要なのか」という本質的な問いに立ち返り、新規事業の具体的なロードマップを従業員の方々に丁寧に説明することが不可欠です。そして、従業員の方々が自由に疑問や意見を表明できる場を設けることが重要です。大人数の場では発言しにくい従業員のために、少人数の対話会や個別面談の機会を設けたり、社内アンケートや意見箱を設置して匿名で意見を提出できたりする仕組みを作るなど、様々な工夫が必要です。従業員一人ひとりの意見に丁寧に耳を傾けることでしか、会社は変わることができません。 今回の実務補習で得た学びを活かし、今後も中小企業の皆様の発展に貢献できるよう精進してまいります。
0 コメント
テレビに流れるコンサルティング会社のCMに次のようなものがあります。会議で経営幹部に予算達成可能性を無下に否定され、社員懇親会で社員から「予算って幾らだっけ」と返される社長。社長の孤独をデフォルメし、経営コンサルタントの必要性を訴えたいのでしょう。しかし、このような状況にある社長は、「そもそも社長の資格なし」と捉えられても仕方ありません。
予算の承認と会社法上の取扱い 会社法に明文の定めはありませんが、取締役会設置会社であれば、予算を取締役会で承認するのが実務上一般的です。 一方、取締役会を設置していない会社であっても、取締役間で方向性について意思疎通を図り、合意形成を行うことが通常です。こうしたプロセスを経ることで、経営者の独断専行を防ぎ、組織としての一体感を醸成することができます。 予算策定がもたらす効果 予算は単なる「数値目標」ではなく、以下のようなさまざまな経営効果をもたらします。
実現可能な予算でなければ意味がない 予算は、現実的な根拠に基づいて策定されなければ意味がありません。無理な目標を掲げ、その数字に合わせようとするあまり、粉飾決算に手を染め、最終的に倒産に至った企業は少なくありません。 予算を立てる際は、次の要素をバランスよく踏まえることが重要です。
社内コミュニケーションの徹底が鍵 経営幹部で合意した予算については、従業員に対して丁寧に説明する機会を設けるべきです。なぜその予算を設定したのか、背景・理由・目的を共有することで、従業員の納得と主体性が高まります。 また、定期的に実績の途中経過や結果を報告することも重要です。これにより、経営状況への理解が深まり、業績評価や人事管理との連動も図れるようになります。 さらに、各部門に予算をフィードバックし、KPI(重要業績評価指標)として実績管理に活用することで、組織全体の目標達成意識を高めることができます。 予算は会社を一体にするツールである 冒頭で紹介したCMに見られるような状況は、予算の作成プロセスと社内コミュニケーションの方法に根本的な誤りがあるからこそ起こるのです。 予算は、単なる数字の積み上げではありません。会社全体を巻き込み、一体感を醸成するための、極めて重要な経営ツールなのです。 先日行われた東京都議会議員選挙で、石丸伸二氏が立ち上げた政治団体「再生の道」は、「誰もが政治家を志せる社会」を掲げ、政治参加の促進を最優先の目的としましたが、候補者42名が全員落選するという結果に終わりました。この結果は、中小企業の経営戦略においても、非常に示唆に富むものと言えるでしょう。
「理念」と「具体的な提供価値」のギャップ この問題は、まさに「理念」と「具体的な提供価値」のギャップとして現れます。皆様の会社がどんなに「地域貢献」や「お客様第一」といった素晴らしい理念を掲げていても、それだけではお客様は商品やサービスを購入してくれません。
「再生の道」の場合、個々の候補者が独自の公約を掲げたものの、団体全体としての統一された「政策パッケージ」や「当選後に何を実現するのか」という具体的なビジョンが見えにくかったことが、有権者にとっての「提供価値の不明瞭さ」につながったと言えます。 「参加することに意義がある」だけでは選ばれない 「再生の道」は、政治経験を問わず広く候補者を募ることで、「政治参加の促進」という理念自体は体現していました。これは素晴らしい試みですが、選挙においては「参加すること」だけでなく、「選ばれて、期待に応えること」が求められます。 中小企業経営においても同様です。「良いものを作っています」「一生懸命やっています」という思いは尊いものですが、お客様が見るのは、「それが自分の課題を解決してくれるか」「競合より優れているか」「信頼できるか」といった、より現実的な基準です。
「再生の道」の敗因は、まさにこの「選ばれる理由」が明確でなかった点にあると言えるでしょう。 まとめ:中小企業が学ぶべき教訓 「再生の道」の都議選の結果から、中小企業経営者が学ぶべき教訓は多岐にわたります。
今回の選挙結果をきっかけに、自社のブランド戦略や営業戦略をあらためて見直してみることが、今後の成長につながる一歩となるかもしれません。 |