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中小企業診断士として思うこと

利用されるだけの下請けで終わるな - 顧客の無理難題を「資産」に変えた鳥善の経営

10/6/2026

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ビジネス書を読むと、「自ら市場を定義せよ」「新しい顧客を開拓せよ」といった言葉をよく目にします。
もちろん間違いではありません。
しかし、リソースの限られた中小企業にとって、未知の市場への投資は簡単ではありません。
予算も人員も限られる中で、暗闇に向かって投資を続けるのは大きなリスクを伴います。

では、中小企業はどのようにしてブレイクスルーを起こせばよいのでしょうか。

そのヒントが、静岡県浜松市の飲食企業・鳥善の取り組みにありました。
同社のベジタリアン向けカレーが、日本航空(JAL)の国際線機内食に採用されたというニュースです。
一見すると華やかな成功物語に見えますが、その出発点は、自動車メーカー・スズキから持ち込まれた「少し面倒な依頼」でした。

始まりは「インド人社員向けの社員食堂」

鳥善が取り組んだのは、スズキのインド人社員向けのベジタリアンカレーの開発でした。
日本の一般的なカレーには、牛脂や豚脂、チキンエキスなど動物性原料が使われています。
しかし、インド人ベジタリアン向けの食事ではそれらを使用できません。
さらに、多くの利用者の食習慣に配慮し、調理工程でのコンタミネーション対策も求められました。
正直なところ、多くの企業であれば「手間のかかる割に市場の小さい仕事」と考えたかもしれません。
しかし鳥善は、この依頼を単なる受託業務で終わらせませんでした。

「巻き込まれたら利用する」という発想

鳥善は社員食堂向けのメニュー開発で得たノウハウを、レトルトカレーへ展開します。
そして、その販売方法が実に興味深いのです。
商品名は「鳥善カレー」ではありません。
「スズキ食堂」です。
パッケージにはジムニーやハヤブサなどスズキの人気車種を採用し、販売もスズキ公式ECサイト「S-MALL」を活用しています。
つまり鳥善は、
  • スズキのブランド力
  • スズキのファンコミュニティ
  • スズキの販売インフラ
を徹底的に活用したのです。

多くの中小企業は「自社ブランドを育てなければ」と考えます。
もちろんそれも大切です。
しかし鳥善は、自前主義にこだわりませんでした。

自社が得意なことは徹底的に磨く。
一方で、集客や販売は既に強みを持つ企業の力を借りる。

その結果、鳥善はデジタルマーケティングやEC運営に経営資源を割くことなく、「本物のベジタリアンカレーをつくる」という強みに集中することができました。

その先にJALがいた

その転機となったのが、2025年に浜松市内で開催された「インドはままつフェスティバル」でした。
会場で鳥善のカレーを食べたJALインド支店長は、「日本で本場のカレーが再現できるのか」と衝撃を受けます。
スズキ幹部の仲介もあり、機内食採用の話は一気に進みました。
機内食の安全基準を満たすため、1500万円を投じて金属探知機などを導入。
結婚式場のキッチン設備も活用しながら品質向上を進め、JAL国際線の通常機内食への採用を実現したのです。

偶然の出会いだけで成功したわけではありません。
目の前に現れた機会を見逃さず、さらに投資を行ったからこそ、新たな市場への扉を開くことができたのです。

下請けで終わる会社、資産に変える会社

中小企業には、大企業から様々な要望が寄せられます。
  • 特殊仕様への対応。
  • 面倒な品質要求。
  • 細かなカスタマイズ。
多くの場合、それらは負担として受け止められます。
もちろん、その気持ちは理解できます。

しかし鳥善の事例が教えてくれるのは、その要望の中にこそ次の事業の種が眠っている可能性があるということです。
単に言われた通りに納品して終われば、利用されるだけです。
しかし、その経験を商品化できないか。
他の顧客にも展開できないか。
そこで得た技術やノウハウを新しい市場へ転用できないか。
そう考えた瞬間に、受託業務は「資産」へと変わります。

おわりに

中小企業がゼロから市場を創り出すのは簡単ではありません。
だからこそ、今目の前にある顧客との仕事を見直してみてください。
その中に、面倒だと思っている依頼はないでしょうか。

鳥善の強みは、社員食堂向けの受託業務をそのまま終わらせなかったことです。
レトルトカレー、冷凍食品、そしてJAL機内食へと展開し、一つの顧客から得たノウハウを複数の収益源へ変えたことです。
これは単なる新商品開発ではなく、「受託業務の資産化」と呼ぶべき取り組みでしょう。

大企業の無理難題は、時として自社だけでは絶対に出会えない新しい市場への入り口になります。

​利用されるだけの下請けで終わるのか。
それとも、その経験を資産に変えるのか。
その差が、次の成長を決めるのかもしれません。
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    執筆者

    imwz経営サポート代表
    伊藤安彦
    不定期ですが、頑張ってアップします。
    ​

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